帝人の炭素繊維“テナックス”を使用した織布状ならびに積層板状の中間材料である炭素繊維強化熱可塑性複合材(CFRTP)が、米国の民間認証機関であるNCAMP(National Center for Advanced Materials)の認証を獲得した。織布状ならびに積層板状のCFRTPがNCAMPの認証を得たのは世界初という。
NCAMP は、ウィチタ州立大学 (米国・カンザス州)が運営する民間認証機関。航空宇宙産業における革新的な材料の開発と認証を促進するために設立された。航空宇宙産業で使用する材料の性能評価と品質管理に関する包括的なデータベースを提供する機関であるため、同認証を得た材料であれば企業は独自の試験や認証プロセスを繰り返し行う必要がなく、関連コストを削減することが可能となる。NCAMPが認証したプロセスによって開発された複合材料の仕様や設計値は現在、米国連邦航空局(FAA)をはじめ、欧州航空安全局(EASA)や、ブラジルの国家民間航空機局(ANAC)などで認められ利用されている。
今回、認証を取得したCFRTPは、熱可塑性複合材料織布“テナックス TPWF(Thermoplastic Woven Fabric)”と、熱可塑性樹脂積層板“テナックス TPCL(Thermoplastic Consolidated Laminate)”の2製品。テナックス TPWFは、炭素繊維織物に熱可塑性樹脂を付着もしくは含侵させたシート状の材料であり、一方、テナックス TPCLはそのテナックス TPWFを積層させたものに熱と圧力をかけて成形した板状の部品。これらのCFRTPは、いずれも母材としてポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を使用したものであり、耐熱性、耐衝撃性、および耐疲労性に優れた特長をもつ。また、テナックス TPWFおよびテナックス TPCLの機械特性や成形性に関する情報は、高機能材料の製造・加工プロセスを分析するシステムとして航空宇宙業界から高い信頼を得ている「アニフォーム」ソフトウェア※に登録されている。
CFRTP は、部品製造前の保管が容易で、部品製造時の加工性や耐久性に優れ、使用後のリサイクルも可能なことから、航空宇宙市場が注目している材料のひとつ。今回、テナックス TPWFやテナックス TPCLが NCAMP の認証を受けたことで、航空機メーカーや電動垂直離着陸機(eVTOL)メーカー、および航空機部品サプライヤーは、自社での個別の材料認定作業を行うことなく、NCAMPが公開しているデータベースを活用することで、民間航空の安全を管轄する政府機関の認定を効率的かつ低コストで取得できるようになるため、帝人はCFRTPの使用拡大につながると期待している。
帝人は長期ビジョンである「未来の社会を支える会社」を目指し、航空機のライフサイクルにおける温室効果ガス排出量削減に貢献すべく、航空機向け炭素繊維中間材料の展開に注力しており、今後も航空機向け炭素繊維製品のマーケットリーダーとして、炭素繊維原糸から織物基材、熱可塑性樹脂を使用した中間材料などのラインアップの拡充ならびに用途開発を強化して行きたいとしている。
※「アニフォーム」ソフトウェア: アニフォーム・エンジニアリング社(オランダ・エンスヘデ市)が開発した高機能材料の成形性を検証するためのシステム。航空宇宙向けの複合成形材料が多く登録されている。