ベカルト社と東芝エネルギーシステムズ㈱(以下、東芝ESS)は、戦略的協業契約および固体高分子形水電解装置(PEM電解装置)の主要部品である膜電極接合体(MEA)の製造技術ライセンス契約を含むグローバルパートナーシップを締結することで合意した。同契約は2023年9月に覚書を締結して以来、検討を重ねてきた両社の技術的・製造的・商業的な強みを活用するための協業契約を正式に締結するもの。
PEM電解装置は電気を利用して水を酸素と水素に分解するが、電力が再生可能エネルギー源の場合、温室効果ガスを排出することなく水素を製造することが可能となる。この電解装置の触媒にはもっとも希少な金属の1つであるイリジウムが使用されているため、イリジウム含有量を削減するソリューションは同技術の大規模採用へ向けての重要なブレイクスルーとなる。
今回の契約締結により、PEM電解装置用MEAの主要部品であるチタン不織布(PTL)におけるベカルト社の優れた専門知識と、東芝グループの革新的な省イリジウム技術が組み合わされ、PEM電解装置の製造におけるイリジウム使用量の90%削減が可能となる。このイリジウム削減により、MEAの安定供給が可能となり、グリーン水素製造の拡大に貢献すると期待されている。
ベカルト社は、そのグローバルネットワークとベルギーに確立された製造拠点を活用しMEA製造の商業化を行い、顧客にサービスを提供。東芝ESSはベカルト社に省イリジウムのMEA技術をライセンスし、MEAの製造・販売権を付与する。一方、東芝ESSは同技術の技術的性能のさらなる向上に注力する。この契約は全世界を対象としたものであるが、日本関連のプロジェクトは別の契約の対象となる。
ベカルト社のエネルギートランジション事業シニアバイスプレジデントであるInge Schildermans(インゲ・シルダーマンス)氏は「ベカルトはグリーン水素製造の開発におけるリーディング・プレイヤーであり、この革新的なPEM電解装置用MEAの商業化において東芝と提携できること、さらに当社のグリーン水素の顧客にこの技術を提供し、コストと持続可能性の課題を達成する支援ができることを嬉しく思う。ベカルトはグリーン水素技術および当該産業のパートナーとしての地位を確立し、水電解装置の規模拡大とエネルギー転換が実現できるよう支援していく」と述べる。
東芝ESSのエネルギーアグリゲーション事業部バイスプレジデントの河原慈大氏は「急増するグリーン水素の需要に対応するためには、PEM水電解装置のさらなる普及が不可欠。東芝グループの先進的な省イリジウム技術と、ベカルト社のPTLにおける長年の専門知識を組み合わせることで、グリーン水素製造のキーとなる水電解装置業界に迅速かつ最大限アプローチできるようパートナーシップを形成した。われわれは、この提携がグリーン水素の急速な需要に効果的に対応し、水素社会の実現に大きく貢献すると確信している」とコメントしている。
なお、ベカルト社のチタン不織布(PTL)はグリーン水素製造用水電解装置など電気化学デバイスの耐久性と性能を高める材料として使用されている。同社は、PEMおよびAEM電解装置のPTLにおいて、Currentoのブランド名で技術および市場におけるリーダー的地位を確立。グリーン水素製造のための次世代革新的ソリューションの開発と、今後数年間で生産能力を数GWまで拡大するための投資を行っている。
他方の東芝ESSは東芝の100%子会社で、東芝グループにおけるエネルギー事業を担っている。幅広い発電・送電システムやエネルギーマネジメント技術に関する長年の経験と専門知識を活かし、革新的で信頼性が高く、効率的なエネルギーソリューションを全世界に提供している。